山口地方裁判所下関支部 昭和62年(ワ)238号 判決 1991年9月30日
原告
田村弘美
被告
金子美智雄
主文
一 被告は原告に対し、九七八万一六五三円及びこれに対する昭和六〇年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、一七七七万〇五六八円及びこれに対する昭和六〇年六月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、前車を追い越すため猛スピードでセンターラインを超えて運行し、対向車の右側面に加害車前部を衝突させ、よつて走行の自由を失い逸走しさらに加害車前部を対向被害車の前部に激突させ、被害車を大破させた加害車の保有者であり運転者である被告に対し、負傷した被害車の同乗者である原告が、民法七〇九条、自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
被告は、昭和六〇年六月二五日午前七時五五分頃、山口県下関市筋ヶ浜町二一番下関下水処理場先道路上(以下「本件事故現場」という。)において、その運転保有する普通乗用自動車(山口五五め三一〇二、以下「加害車」という。)を前車を追い越すため猛スピードでセンターラインを越えて運行し、対向車の右側面に加害車の前部を衝突させ、よつて走行の自由を失い逸走した加害車の前部を、さらに原告が同乗し、原告の夫田村宣夫(以下「宣夫」という。)の運転する対向軽四貨物自動車(山口四〇け四四九〇、以下「被害車」という。)の前部に激突させ、被害車は大破し、原告は、傷害を負つた。
二 原告は、右大腿骨頸部及び骨幹部骨折、右足外果骨折等の傷害を負い、事故当日から昭和六〇年八月七日まで四四日間、国立下関病院に入院し、同日から同年一二月二六日まで一四二日間社会保険下関厚生病院(以下「厚生病院」という。)に入院、同月二七日から同六二年四月五日まで四六五日間(診療実日数三〇二日)通院、同年四月六日から同年五月一一日まで三六日間同病院に入院、同月一二日から同六三年二月二九日まで二九四日(診療実日数一八七日)同病院に通院した。(甲四の一・二、五ないし七、二三ないし二六、弁論の全趣旨)
三 争点
被告は、原告の後遺障害、損害額を争うほか、過失相殺を主張した。
第三争点に対する判断
一 過失相殺
被告は有料道路のインターチエンジ付近である本件事故現場で、前車を追い越そうとしたものであるが、雨天で道路も濡れ、見通しもやや悪かつたにもかかわらず、対向車との安全を十分確認することなく、時速約七〇キロメートルに加速してセンターラインを越え進行したため、対向車を約一九・五メートルに迫つて初めて発見し、左に急転把したが間に合わず、対向車の右側面に加害車の前部を衝突させ、よつて走行の自由を失い逸走した加害車の前部を、さらに宣夫の運転する被害車の前部に激突させたものである。宣夫は、右インターチエンジで流出すべく、左の流出ランプの方を見ながら、時速約四〇キロメートルで減速中であり、加害車がセンターラインを越えてきたのを約一〇メートルに迫って初めて発見し、急ブレーキを踏んだが間に合わず加害車と衝突した。(甲一、九ないし一六、一九、二二、原告本人)
右の事実によれば、宣夫にも、前方に十分注意していなかつた過失があり、宣夫は原告の夫で原告は同乗中本件事故にあつたものであるから、宣夫の右過失も公平上考慮することとし、被告の過失を対比すると、原告の損害額から一〇パーセントを減額するのが相当である。
二 損害
1 治療費及び装具(弁論の全趣旨) 一〇七万五二七三円
2 入院雑費(一日一〇〇〇円、二二一日間) 二二万一〇〇〇円
3 通院費 一一〇万一三二〇円
原告は右通院加療期間中、昭和六二年一一月までは右膝可動域制限等のため、バスによる通院が不可能であり、その間の四三七回の通院は自宅から厚生病院までタクシー(片道約一二五〇円)を利用する必要があり、同年一二月はバスで通院(一か月定期八八二〇円)した。(甲五、七、三〇、乙一七、原告本人、弁論の全趣旨)
1250×2×437+8820=110万1320
4 入通院慰謝料 二五〇万円
以上認定の諸事情を考慮すると、二五〇万円をもつて相当と認める。
5 休業損害 四〇八万六八〇八円
原告は右入院期間の二二一日は一〇〇パーセント、通院期間七五九日は六〇パーセント家事労働に従事することができなかつたので、その損害を、本件事故当時満四〇歳の女子労働者の平均賃金を賃金センサスの平均給与額の範囲内である月額一八万三八〇〇円として計算すると、原告の休業損害は四〇八万六八〇八円となる。
18万3800×12÷365(円未満切捨て)×(221+759×0.6)=408万6808(円未満切捨て)
6 後遺症逸失利益 四三四万五五一七円
原告の本件事故による傷害は昭和六三年二月二九日症状固定したが、左シヨパール関節脱臼骨折部と右大腿骨骨折部の自他動運動時に生じる頑固な疼痛による下肢の運動障害の後遺症があり、右後遺症は自動車損害賠償法施行令後遺障害別等級表の第一二級第一二号に該当し、その労働能力の一四パーセントを喪失したので、その逸失利益を原告は事故当時満四〇歳、症状固定時満四三歳であつたので新ホフマン係数一四・〇七三(一六・八〇四-二・七三一)を適用すると四三四万五五一七円となる。(甲二三、証人大宮、原告本人、鑑定)
18万3800×12×0.14×14.073=434万5517
7 後遺症慰謝料 二〇〇万円
8 右合計額一五三二万九九一八円から右一のとおり一〇パーセントの過失相殺をすると、一三七九万六九二六円となる。
9 損害の填補(争いがない。) 四九一万五二七三円
10 弁護士費用 九〇万円
本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑み、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用の額は、九〇万円をもつて、相当と認める。
(裁判官 加賀山美都子)